絵と言葉と

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月まで三キロ

【 ブックレビュー 】

『月まで三キロ』 伊与原 新

6つの物語による短編集
 
宇宙や地層、気象などに詳しい人物が、主人公と対話する形で登場する。

理学系の知識に溢れた人たちは、堅物ではないけれど、ちょっぴり変わり者で、ロマンチストだったりする。

物語の主人公は、事業に失敗し、離婚や親の介護が重なり、人生に絶望している男性。

母親を病気で亡くした少女と、その父親。

人生の時間の大半を家族の為に、費やして来た女性など...

何事もなく暮らしているように見えても、それぞれに悩みを抱えていたり、後悔している過去がある。

そんな人たちが、偶然出逢った人から、何気ない会話の中で、月についての知識や想い、素粒子や宇宙についての話、湖の地層から推測出来る世界についての話を聞く。

時間や距離が、果てしなく広がる未知な話は、日常の私たちの暮らしとは違う物差しとなって、主人公の膠着していた心に風を吹かせる。

「エイリアンの食堂」に出てくる少女とプレアさんの会話が素敵だ。

謎の女性プレアさんは、少女にこう語りかける。

「体には水分が多いでしょ。水は、酸素の原子に水素の原子が二個くっついたもの。水素は、海になり、雲になり、雨になり、生き物の体も作りながら、地球を巡っている。あなたもわたしも、一三八億年前の水素でできている。だから、わたしたちはみんな、宇宙人」

あまりにも素敵で、会話をそのまま抜粋したけれど、私も今度、人から何者かと尋ねられたら「宇宙人です。」と言ってみようか。

勧められて読んだ、初めての作家の作品。プロフィールを見ると東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻し、博士課程終了とあった。

なるほどの経歴。私のような物理、科学が苦手で、知識がまったく無くても楽しめる物語だった。

どのストーリーも読後感は爽やか。

天王寺ハイエイタス」に出てくる、どうしようもない伯父さんが好きだ。

最後の短編「山を刻む」も、物語の続きを想像してワクワクした。

体験を伴った新しい知識や人との出会いは、人生を変えてしまう力すら持つ。

作者の人に対する眼差しが、どこまでも優しく温かい。何度も繰り返し読みたくなる物語。
 
 
〜ブックレビュー&アート〜
 
今回は、プレアさんの会話から選んだ一枚。「Circle」は惹かれ続けているテーマ
 
 
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死は特別なことではない
水がかたちを変え循環するさまに
繰り返す魂のサークルを思う

先に逝った大切な人も
きっと水の一滴なのだ

私もかつては姿を変え
幾度も今ここではないどこかで
エネルギーのひとつであっただろう
 
 
作品タイトル 「Circle」

作品サイズ 約53×41cm
使用画材 紙にパステル、墨
2017.05.04

#伊与原新 #月まで三キロ #ブックレビュー


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