〈映画〉つつんで、ひらいて
広瀬奈々子監督作品
1万5000冊以上もの書籍の装幀を手がけた装幀者菊地信義さんと「紙の本」をつくる人たちのドキュメンタリー
Facebookでこの映画を偶然知り、公開最終日に渋谷のシアター・イメージフォーラムに行ってきた。
映画が始まり、まず驚いたのが菊地さんの作業のほとんどが手作業で進められていたこと。
タイトルを印刷した紙を丸めて、くしゃくしゃにして文字に表情を出す。
定規ですっと線を引く、切った文字を一文字ずつ並べて貼っていく。
拡大したり、文字の配置を試行錯誤し、使用する紙の質感や透け具合、色や帯など
その本にふさわしい必然が生まれるまで、何度も作業が繰り返される。
その手の動きはリズミカルでとても美しい。
この映画のポスターやパンフレットに「言葉を五感へとどける紙の本。」とある。
本にまつわる背景も大きく変わっているのだろう。私も本を本屋ではなくインターネットで購入したり、電子書籍もよく買う。
電子書籍と紙の本との違いはやはりその質感だろう。本を持った感触や重さ、匂い。
本屋でなければ絶対に出会わなかった本もある。本の装幀や帯の言葉、その佇まいに思わず手に取る。
本に対して、「出会い」や「佇まい」という言葉を使うのは、やはり本が人格や世界観を持った独特な媒体だからだろう。
まだ知らない世界が無限に広がっていくようで、私は本屋に行くとワクワクする。
これだけ多くの本を装幀しているのだから、私の家にも菊地さんが装幀された本があるかもしれないと思い、本棚を眺める。
気配を感じ、手に取った池田晶子著「考える日々」を開いてみると、やはり 装幀 菊地信義 とあった。
日常の言葉で綴られた池田晶子の哲学エッセイは、30代前半の苦しかった頃に、新しいものの見方や生きる希望を与えてくれた。
このドキュメンタリーで、本が出来上がっていく工程を知って、紙の本をより一層愛おしく感じる。
菊地さんは装幀の仕事を「こさえる」と表現していた。お母さんが子供にご飯をこさえるように「こさえる」とは誰かの為であると。
「こさえること」に魅せられた「ものづくり」の現場の人たち。
私もものづくりに魅せられた一人として、心を揺さぶられるシーンや言葉がたくさんあった。
自分のしてきたことを模倣せず、進み続けるのは本当に厳しいことだろう。
菊地さんのものづくりの姿勢、人との関わり、生活や骨董を愉しまれている様子・・・
本が出来上がっていく工場の作業風景もとても面白くて、素晴らしいドキュメンタリー映画だった。
この映画のパンフレットも、とても素敵なのだ。
ゆっくりと時間をかけて五感で楽しもう。
渋谷は上映終了ですが、吉祥寺(2/7〜)埼玉(公開中)や神奈川(時期未定)の公開もあるようです。気になった方は映画「つつんで、ひらいて」公式サイトをチェックしてくださいね。
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