絵と言葉と

生きることはアートだ。生きるを笑おう、生きるを遊べ!

父の机

今回の作品は、パステル以外で描こうと思っていたものの、手元には12色の水彩絵具と、アクリル絵具しかなかった。

色数の少なさや、アクリル絵具は質感が作品に合わなそうだと、他に使えそうな画材を探してみる。

実家から貰ってきた父の机から、22色の水彩絵具が出て来たので、それを使うことにした。


父が亡くなる少し前、「なぜ絵を描かなくなったの?描けばいいのに、勿体ない。」と言われた。

私は驚き、少しムカついた。

もちろん死に向かって、どんどん弱り痩せていく父に文句は言えなかった。


高校三年生の時に、アルバイトをしながら自分で予備校に通った。

どんなに美大進学を懇願しても聞き入れず、奨学金を貰うことすら許さなかった父である。

何かにつけ、気に入らないと出ていけと怒鳴り散らし、幼い頃は顔色をいつも伺い、大人になってからは距離を置いていた。

着物の模様師をしていたが、私が二歳のころに廃業し、いったい何回転職しただろう。

着物関連の仕事は時代と共に少なくなり、肉体労働で身体を壊したりと、時代に恵まれない人でもあった。


私は大学進学を諦め、公務員になった。お金を貯めてから、大学に行くつもりだったが、仕事で疲弊し、そんな思いはすぐに消えた。

そしていつしか、全く絵を描かなくなった。


それが二年前に、十数年ぶりに突然絵を描きだし、今は個展に向けて準備をしている。

まったく思っていなかったことで、自分自身がそのことに驚いている。

大学を出ていないことへのコンプレックスがずっとあったが、気にならなくなったのは、ここ最近だ。

何ひとつ、自分がやりたいことをやらない理由にならないと思い知ったからだ。


父は亡くなる少し前まで、趣味で絵を描き続けていた。

私も再び描きだす様になり、父が使っていた机や道具を貰うことにしたのだ。

絵具の他に、筆立てや梅皿、陶器の筆洗いも使ってみる。


仕上がった絵は、今までと違う優しい雰囲気に包まれ、そんな絵を描けた自分を嬉しく思う。

どこから湧いてくるのか分からない情熱に突き動かされ、今日を生きている。

私の負けん気の強さは、父譲りだ。賑やかで面白い父であった。

嫌いだった、気性が激しく気分屋なところも見栄っ張りのところも似ている。

きっと涼しくて居心地がいいのだろう。貰って来た机は、猫の格好の休憩所となっている(笑)

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