〜 亡き者たちの訪問 〜
夢の中で目が覚めた。
玄関のチャイムが鳴っている。
「こんな朝早くに何だろう?」
でも眠くてベッドから起きられない。
腰窓のカーテンから光がこぼれ、ふと目をやると亡くなったはずの猫が座っている。
後ろ向きなので、クウなのかユキなのか分からない。
居留守を決め込み微睡んでいると、ひょいっとベッドに飛び乗り近づいてくる。クウだろうか。
飛び乗った振動や一歩いっぽ近づいてくる重み、居心地のいい場所を見つけて丸くなる様子が、目を開けなくても、いつもの「それ」だと分かった。
体感を伴い、あまりにリアルなので、夢なのか現実なのか分からなくなる。
何年も前の話だけれど、こんなこともあった。
ベッドでウトウトしていると、寝室の脇の廊下のセンサーライトに灯りがついた。
誰も居ないのに...と思っていると、亡くなった人が枕元に座り、愛情いっぱいに抱きしめてくれた。
やはりベッドが沈み込む感じや、抱きしめられた温もりが現実感を伴っていたので、忘れられない。
思い返せば、どちらも亡くなってから四十九日を過ぎる前で、幻のような、はざまの時間だったのかも知れない。
「ありがとう」と伝えに来たのか、それとも肉体が無くなっても変わらないものがあることを教えに来たのか...
目に見えない世界を理解していても、触れられない淋しさや愛おしさは募る。
思い出す頻度は少なくなっても、瞬間的に訪れる悲しみは、鮮度を保ったままだ。
それでいいのだと思う。
夢で会ったら、またぎゅうぎゅう抱きしめ合おう。
「大好き」「可愛いね」って伝え合おう。
そして、また新しい出逢いがあったら、惜しみなく愛を与え合おう。
喜びも悲しみも、ないまぜに抱えたまま生きていける。
それが人の素晴らしいところだと思う。
絵・文 田村麻美 Mami Tamura
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