絵と言葉と

生きることはアートだ。生きるを笑おう、生きるを遊べ!

『骨を彩る』彩瀬まる/著

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【ブックレビュー & アート 】

 

物語からインスピレーションを得て描いた絵と本の紹介

 


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『骨を彩る』彩瀬まる

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夫の好きなところを聞かれたら、私は間違いなく「手」と答えるだろう。

 


細くて長い美しい指。薄くて大きい手のひら。

 


夜中に目が覚めると、必ず頭をそっと撫でてくれた優しい手を私はもう鮮明に思い出すことが出来ない。

 


感覚は遠ざかり、月日は良くも悪くも記憶を曖昧にする。

 

 

短編『指のたより』の主人公、津村は十年前に妻・朝子を大腸がんで亡くしている。

 


夢の中に出てきた朝子に違和感を感じ、妻の小指が欠けていることに気づく。

 


夢を見るたび、指が欠けていくのだ。まだ元気で輝かしかった頃の笑顔なのに...

 

 

彩瀬まるが紡ぐ物語は、簡単に感傷に浸らせてはくれない。

 


残された中学生になる娘・小春が、祖父母から掛けらる言葉に嫌悪する場面の一文を借りれば

 


「大抵の人間は、死者にまつわる風景を無意識に飴玉にする癖があるのだ。手前勝手に解釈し、センチメンタルな甘さをしゃぶり、ねぶる。」

 


その言葉に痛いくらい共感すると同時に、激しく揺さぶられ、心がささくれ立つ。

 

 

『骨を彩る』は5つの物語からなる連作短編集

 


登場する人たちはどこか欠落を感じ、柔らかな心に痛みを抱えて生きている。

 


「私の中で、いつも、骨みたいなものが、足りなくて」と感じる彼女

 


「深く骨を蝕む黒々とした染み」を抱える少女に共鳴し、何度も涙が溢れた。

 

 

悩みもがきながらも、人は人を求め、分かち合いたいという思いを捨てられない。

 


連なったビーズ玉は、ばらばらになり、いつしか「かちん」とぶつかる音のする関係になってしまった。

 


けれど、切れてしまった糸を丁寧に手繰り寄せれば、おぼろげな記憶の断片は色を取り戻し

 


確かにそこに在った優しさや、気づけなかった愛を見つけることが出来る。

 

 

短編ごとに主人公が変わるが、登場する人が重なり繋がっている。

 


周りから頼りにされ、羨ましがられるような人物が、物語が変わると別の顔を見せる。

 


それは人が多面的で、誰もが心の内に痛みを抱え、それでも懸命に生きていることを想像させる。

 

 

心に巣食う孤独や傷に触れながらも、読後感は爽やかで優しい希望に満ちている。

 


豊かな素晴らしい表現力で、情景が目に浮かび、音や匂い、流れる風を感じさせる。

 


物語の中に引き込まれ、主人公たちと想いを重ね、痛みを分かち合った。

 

 

薄れていく愛おしい時間も、忘れられない傷や痛みも

 


いつしか自分を支える人生の彩りになっていくのだろう。

 


心が静かな希望に満たされていく一冊。

 

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幻冬舎 文庫本・電子書籍あり

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レビュー & 絵 Mami Tamura

作品タイトル 「記憶の泉」

作品サイズ 148×100mm

使用画材 色鉛筆、鉛筆

2020.05.06

 

#ブックレビュー #アート

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