私は死んだことがないから、死んだあとのことは分からない。
魂というものを、感覚として知っていると感じることや、知識としてこんな感じだろうと思うところはある。
夫が肉体から離れるまでの数日間は、残される人たちの心の準備のために頑張っているように見えた。
私は夫に、何にも心配いらないよ。大丈夫だよと繰り返し言っていた。
頑張っててカッコいいねと言ったら、嬉しそうに頷いた。
私が側にいることを一番に望んでいるように思えた。
お互いがお互いの最大の理解者だった。
私は信じていないことや違和感を感じることをするのが、頑ななほど出来ないタチだ。
だから夫が亡くなった時は、本当に困った。夫もその手のことに、まったく興味がなく、墓も葬儀もいらないと言っていた。
この世に心残りも多少はあれど、繰り返す手術で苦しい肉体から離れることを楽しみに(?)修行なんてもう充分だぜ!と思っているフシがあった。
けれど親より先に逝くことが、残されたものにとってどれだけ苦しいことなのか、その痛みが私の想像を超えることは理解していたので、私は周りに任せることにした。
大きかった人ひとりが、ひと抱えの小さな壺の中に収まってしまう。
骨を拾い骨壷を渡された時、その事実に衝撃を受け、葬儀の中で一番泣いたように思う。
けれど自宅に帰った途端、ああこれで夫は苦しかった肉体から自由になったのだと思った。
与えられたそれらに、私は毎日手を合わせ続けた。
もう、痛くないよ
もう、お腹は空かないよ
光の存在になったから、自由で軽やかだよ
夫にそう伝えた。自分でも不思議なほど、遺骨や位牌、墓などにまったく興味が持てなかった。
色々なことがあって、一周忌を機に姓を元に戻した。
手続きを済ませ、夫の実家へ挨拶に向かう前日、アルバムをめくっていたら、急に夫の声が聞こえた。
私に望むことは、色々な人と出逢い、また愛し愛されること。
自分の狭い世界を飛び出すこと。
私は霊感なんてないけれど、はっきりとそう聞こえた。
涙がポロポロとこぼれ落ちた。
普段から、一度きりの人生、好きなように生きればいいと私に言っていた。
もうすぐ四年が経つ。私にとって激動の四年間だった。
自分というものを見つめ、揺らされ壊され、再生するプロセスは痛みを伴った。
本当にさびしく、苦しい日々だった。
あの頃より、今の自分が好きだ。
夫が願ってくれたように、自分の狭い世界から飛び出し、見える世界も変わっていった。
私は変わり続ける。気づけば私は出逢う人に、夫と死別していることを話さなくなった。
以前は言わないと、何か相手に自分を隠しているようで居心地が悪かったのだ。
けれど、その経験を話したい訳でもなかった。
周囲にまとわりついていた悲しみは、私の内的な一部分となり、光となったように感じる。
たくさんの愛情を夫からもらった
たくさんの経験を夫の死からもらった
私の心はより豊かで自由になった
ありがとう!私は元気だよ〜
この文章は2017年8月、Facebookに投稿したものに加筆・修正したものです。
作品タイトル 「Circle」
作品サイズ 約67×51cm
使用画材 パステル・墨
制作年数 2017.05.04
Facebook 田村麻美
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